「白糸酒造」創業170周年。未来への企業ブランドを先鋭化する理念構築。
究極の定番酒を造るとは「究極の普通」を突き詰めること | 福岡県糸島市
福岡県糸島市で、酒造りを続けてきた酒蔵「白糸酒造」。
伝統を受け継ぎながらも、新たな時代に向けて進化を続ける同社は、2025年で創業170周年を迎えました。同時に、白糸酒造の代名詞とも言える地元の人気定番酒「田中六五」の発売15周年でもあります。こうした大きな区切りである2025年の始まりとともに、「田中六五」を世に送り出した、田中克典氏が8代目代表取締役社長に就任しました。
クロマニヨンは田中社長が専務時代の2023年6月、企業ブランディングの相談をいただきました。

田中社長(当時:専務)が抱いていた課題としては次のようなものでした。
「田中六五」ブランドが地元を中心に人気を博しており、今は経営的には順調だ。しかし、自分がリーダーとなった時に、次の時代に向けて進むための大きな軸が必要だと感じている。蔵人たちの気持ちを一つにできるもの。迷った時に立ち返るもの。それが無いと、白糸酒造全部がブレていく気がする・・・
この言葉は、非常に印象に残りました。
ある程度人気商品を出している企業は、「次のヒット商品」を追い続けるのは常であり、ある程度仕方ないといえるかもしれません。しかし、田中氏は自分が社長となってからの最初の使命を、自社のブランドを一貫したものにして、スタッフたちに、しっかりと進む道を示すことだと考えたということです。
これは、経営者として企業ブランドを強化するということ。そこから、白糸酒造のブランディングプロジェクトはスタートしました。

当時、社長だったお父様を皮切りに、個別のインタビューを実施。その後、全ての蔵人のみなさんに「ブランドセミナー」と、ワークショップを実施しました。「白糸酒造の強さや弱さ」「未来にどんな白糸酒造であってほしいか?」など、普段黙々と日本酒を造る方々の本音をたくさん聞くことができました。
それらを分析。方向性を示しながら、田中社長と何度も何度も対話を重ねました。田中社長が「ありたい姿」「ゆずれないこと」、そして「世の中における、白糸酒造の存在意義」を深く深く掘っていきました。
クロマニヨンとしては、同業他社に無い強みを無理やり理念にもりこんだり、他者との差別化に終始するのは企業ブランディングの基礎としては間違っていると思います。それは、個別商品の「マーケティング」で議論すればいい。企業ブランドにおいては、なによりも経営者が心から思っていることを純粋に、その企業のあり方とあわせて言語化するべきだと考えています。
そうして、共にたどりついた言葉はこれでした。

NormCore(ノームコア)と言う言葉。ファッション好きの方は耳にしたことがあるかもしれません。
2000年代初頭に、ファッション業界で使われるようになった言葉で、NormCoreとは「Normal&Hardcore(ノーマル&ハードコア)」の造語であり、直訳すれば「極端な普通」「究極の普通」というニュアンスになります。
この言葉をもって、白糸酒造が単に「普通を追求しましょう」ということではありません。伝統、技術、原料をもって、日本酒の本質を究めていくということ。シンプルに日本酒に向き合うということ。つまり「白糸酒造にとっての普通」とは何か、「本当に白糸酒造らしい酒とはどういうものか?」という問いに正面から立ち向かっていくという覚悟を表した言葉です。
同蔵が生み出した「田中六五」は、15年の時を経て、福岡の定番酒と言われる存在になっています。次の時代も愛され、人々を幸せな気持ちにさせる「いつもの(ノーマル)の酒」を作り続けるために「激しいまでに(ハードコア)」挑戦していく。その気持ちを込めた、蔵人たち全員のスローガンとして設定しました。

これに加え、企業理念体系も整理しました。
この会社の「使命」と「約束」というシンプルな構造で、理念を開発しました。

「使命」は文字通り「白糸酒造」の存在意義。田中社長の「美しさ」へのこだわり。そして「田中六五」が福岡の定番酒であることに甘んじることなくスローガンにある「究極も普通」を求めていく。しかし、それが最後の目的ではなく「神事」でもある「酒造り」の本懐は、天、地、人の調和を守るという大きなものになりました。この「天の時、地の利、人の和」は、田中社長の酒造りの師匠が、ずっと言われていた言葉だそうです。それを、理念にそのまま盛り込みました。パッと聞いてわかりにくいかもしれないけれど、この言葉を蔵人たちと一緒に理解していきたいという思いが込められています。

「約束」は、蔵人の方々の普段からの心構えを共有するもの。「白糸酒造」が優先する価値観が五項目で表される、わかりやすいものになりました。酒造りというものへのリスペクトから始まる「約束」は、非常にシンプルで強いと思っています。
2025年になっても、伝統の「ハネ木」は健在。古い建物を残しながら、今も蔵の刷新が進んでいます。
また、コロナで中止されていた「蔵開き」も再開し、地元住民を中心に非常に賑わっていました。
「時代の定番酒」を、「NormCore」に究めていく。福岡を代表し、日本を代表する酒蔵として発展していくことを、楽しみにしています。

今日も、お店で「田中六五」を注文してください。
プロデュース&ディレクション
小柳 俊郎(CROMAGNON&Co.)
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- CLIENT
- 有限会社 白糸酒造
- WEB
- http://www.shiraito.com/