クロマニヨンCEOコラム:006 「世界遺産のジレンマ」
そろそろ、屋久島に再訪したい。
ブランディング や理念の構築という仕事がら、特に人と人との濃いコミュ二ケーションが重なるためなのか、近頃やたらと自然に行きたがる自分がいる(キャンプ含めて!)。前回、屋久島に行った時の写真をスマホから引っ張り出して、先輩に見せて話していると、不意に質問を受けた。
「小柳、屋久島が世界遺産って知っとるや?」
(鹿児島観光公式サイトより)
は? 何を言ってるんですか。
悪いスけど、前回の屋久島ツアーでは、初日に「屋久杉」まで歩き、2日目に九州最高峰の「宮之浦岳」を登頂するという48時間で78,000歩も歩くという、クレイジーな屋久島体験を完遂しているのです。
屋久島が世界遺産だということは、シャア専用のモビルスーツが朱色って知ってるか?と言われているようなもの。
「もちろんです。法隆寺とか、姫路城とかと一緒に、日本で最初に世界遺産登録されたんですよね?」
と、おまけの豆知識をつけて返答しました。
すると先輩は、さらに質問してきました。
「じゃぁ、屋久島の何が世界遺産か知っとるや?」
あ?え? 屋久島の何が?え?島全体ではなく?
そう言われると、島ごと「世界遺産」として指定されてるものだとばかり思っていました。
だいいち、島ごとにしても、なんで?
正確には、世界遺産に指定されている「場所」は、島全体の約21%ほどだという。屋久島国立公園と森林生態系保護地域、そして原生自然環境保全地域を全部含んだ地域。つまり、人が生活している場所なのに、古代からの原生植物がそのまま残り、亜熱帯気候から冷温帯気候すべてが一つの島に同時に存在しているという「自然体系が世界遺産」なのだということです。
「いや〜先輩。勉強になりました!」
素直に、気持ちを伝えたが、先輩は許してはくれませんでした。
「じゃ、小柳。ユネスコは、何のために世界遺産登録やるのか知ってるか?」
この後の私の拙なすぎる回答は役に立たないので、農林水産省のホームページに頼ると、
世界遺産とは、文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷、破壊等の脅威から保護し、保存するための国際的な協力及び援助の体制を確立することを目的とする。
と書かれています。
しかし一方で、みなさんは「世界遺産登録」と聞くと
「観光地としてランク爆上がり!イェイ!」とか
「観光客倍増で商売ウハウハ!イェイ!」というイメージないですか?
実際「屋久島」は、日本最初の世界遺産登録ということで、それまで観光地として有名ではなかったのですが、これで一躍話題になりました。まさに、観光業者も現地も「世界遺産の島:屋久島」で大キャンペーンを張り巡らし、CMにも縄文杉が使われました。
結果、1970年代半ばから1980年代半ばまでは10万人台前半で推移していた観光客が,世界遺産登録後の2007年度には40万人を上回ったと(地域総合研究:深見聡氏)資料にありました。
そもそも「世界遺産登録」の本質的な「ミッション」は「貴重な遺産の保護・保存」です。
しかし実際は「話題性による集客」に目的が置き換わっている現実があること。
さらには、集客が成功し、人が沢山来ることで、登録された対象物が傷んだり破損したりするというケースが頻発し、まさに本末転倒という事態になっているというのです。
これを「世界遺産のジレンマ」と呼び、多くの偉い先生方が論文などで言及されています。
実際、屋久島で有名な「縄文杉」は、あまりに多くの人々が押し寄せ、樹齢何千年といわれる「根」を登山客が踏みまくり死んでしまうリスクにさらされたため、現在周囲は物見櫓のようなもので保護されていますし、多くの登山客のトイレ問題で、森へのダメージが常に問題にあがっているようです。
話題にもならず、人が来ない方が、
世界遺産登録の本来のミッションを達成できるやんけ!
ということですよね。
ただ、おかげで「街が潤っている(潤った)こと」には間違いない。街おこし的には成功です。上手に商売につなげて、豊かになった方もいるでしょうし、島の税収も増えていると思います。「屋久島」は圧倒的な自然を体験する観光地としては「ブランド」になりました。
もう良くも悪くも後に戻れない今、今後、屋久島がどうバランスをとりながら、このジレンマに向き合い、どんな存在として認知されていくのか、僕にはすごく興味深いです。
このことを知って、僕は「SDGs」という言葉が頭に浮かびました。
「持続可能な開発目標」は、当然今後の地球にとって必要不可欠で良いことに間違いない。
しかし「SDGs投資」という言葉があるように、世界的には、本来の意味とは違う側面があることも「オトナな」我々は知っています。そこがこのムーブメントの原動力にもなっている。
プラスチックゴミを減らそう!努力するんだ!地球のために!
・・・というより「コンビニのビニール袋有料化」というムーブメントを作った方が、企業も損しないし、生活者は無駄なお金を払いたくないから、自動的に参加する。結果プラスティックゴミが減る。世の中にはこのような仕組みがたくさんある。
まさに、良くも悪くもこういう仕組みを企業のインナーブランディング にも応用できないものかと、日夜考えております。
あ、結論ない話ですみませんでした。
屋久島・・で余談ですが、
みなさん、この雑誌はご存知ですか?
「Kilty BOOKS」という屋久島の出版社が出している壮絶に完成度が高い雑誌「SAUNTER Magazine」。東京で活躍されていた方が、屋久島に移住して、出版社を立ち上げて場所にとらわれない仕事をクリエイトする。代表の方にはお会いしたことはないですが、屋久島だった理由とかぜひお聞きしてみたいなと感じます。
今回も、おつきあいありがとうございました。