二日市温泉「大丸別荘」 新企業理念構築。全社員で生れ変わる、その覚悟のブランド。

福岡県筑紫野市にある「二日市温泉」は、約1,300年の歴史を持つ古い温泉街です。
そこに、創業約160年を数える老舗温泉旅館「大丸別荘」は、様々な歴史背景とともに長い歴史を刻んできました。

そんな中の2023年2月。
大丸別荘の温泉大浴場が、国が定める衛生基準に違反していることが発覚し、全国で大きく報道されたのでした。その後も不幸は重なり、一時「大丸別荘」のブランドも、そこで働く人々の心もズタズタになってしまいました。

しかし、新しく社長に就任された、外木場大倫氏のもと、スタッフ一同再建に着手。事件直後は、毎日数百件あった苦情やお叱りの電話の一つ一つに回答し、メディアの取材に対しては、すべての情報をオープンにし、誠心誠意対応することを重ねていったといいます。また、内部的には、問題となった大浴場問題の原因を明確化し、それに対して日本一厳しいともいえる対応を施していかれました。その本当に苦しい作業と並行しながら、2023 年7月、外木場社長からクロマニヨンにご相談を受けました。

前社長の経営のやり方を一新して、時代にあった正々堂々と、しかも社員が幸せになるような会社にしたい。
「生まれ変われるのは、今しかないんです。160年の歴史を絶やさぬためにも、次の未来に向けて企業の理念を定めたい」
まさにこの覚悟の言葉は、深く心に刺さりました。

実は、僕自身、部外者として事件を聞いた時は「やちゃったなぁ」くらいにしか見ていませんでしたが、実際に大丸別荘を訪れてみて「この施設を、福岡から無くしてはいけない！」と強く感じるほど、すごい場所だったのです。福岡市内から30分くらいのところに、見事な6000坪の見事な日本庭園が広がり、大正時代からの建物が威容を誇っている。そして昭和天皇はじめ、数々の文豪などが滞在した足跡がそこらじゅうに展示してありました。

「クロマニヨン」としても、魂で向き合うことを決めて、大丸別荘のブランディング・プロジェクトはスタートしたのでした。創業158年目であった同社が、200周年へ向けて、会社の存在意義と方向を「言語化」するプロジェクトとなりました。

約8ヶ月をかけて全社員の声を集めて、新しい企業理念を作り上げたのですが、そのプログラムを進行させていく中でも、最も印象的だったのは「全社員参加」のワークショップでした。実施前に社長は「これまで”会社に対して物を言う”ということが考えられないことだった。だから、どれくらい話してくれるのか不安だ」と言われていました。

しかし、蓋を開けてみれば、最初こそ固い雰囲気でしたが、徐々にグループ毎の雰囲気は非常にオープンになり、素敵で素直な意見が多数出されました。

こうした一連の、約８ヶ月に及ぶブランディング・プログラムを経て、大丸別荘の新企業理念が産み出されました。

パーパスである「私たちの務め」は、全社員へのアンケートやワークショップ。そして経営陣の想いが奇しくも一致した「人への想い」「おもてなし」そして、務めていく先に「日本の旅館文化を継承していく」という使命を、明文化しました。

ビジョンである「私たちの行く先」には、一度どん底に落ちた際も、最初に支えてくれた地元「二日市温泉」への想いをこめて「日本随一の温泉旅館へ」という大きな目標を宣言。「随一」とは、規模や流行ではなく独自の「オンリーワン」を目指し続けることを文章化しました。

バリューである「日々の心得」は、日常の社員の行動規範とも言えるもの。ここでは、５つ目に「着実に信頼を積み重ねる」ことが宣言されました。

そして、クロマニヨンとしては、この理念を、会社内外に発信する合言葉的な存在として、スローガンと、それを捕捉するステートメントをこ提案し決定しました。

この一連の理念体系は、再び全社員を集め、プロジェクトで抽出したみなさんの言葉やワークショップの様子を再び振り返るなどをしながら、直接社長から発表する形をプロデュースしました。終了後、若いスタッフの方が「すごく感慨深いです」という感想や、ベテラン社員からは「グッときた。涙が出そう。」という感想もいただき、本当に素晴らしいプロジェクトになりました。外木場社長、徳岡さん、そしてスタッフの皆さんの歯を食いしばるような一年に敬意を表したいと思います。

今後は、この言葉をさらに浸透させ、自分にとっての理念とは？を深めるフェーズへと入っていきます。

この文章を書いている時点で、稼働率は昔以上の水準まで復活しています。みなさんも、生まれ変わった「大丸別荘」に、ぜひお立ち寄りください。